正田建設 株式会社 常務取締役 長谷川 克弘さん

土木建設業はものづくり
フルオーダーを造る喜び

鉄道、道路や河川。町のハードを整え半世紀

 1966年創業、土木建設業を営む正田建設株式会社は、創業時、鉄道関連の仕事の受注が多く、冬は主に保線工事、夏は道路工事などを行っていました。当時、20名ほどの従業員で3~4件の工事を同時に進めていたといいます。
 現在は道路工事のほかに、河川改修や護岸工事、雪崩や土砂崩れ防止のための法面工事、防雪柵など、「とび土工コンクリート」に分類される工事を南宗谷エリア全域で受注しています。ここ10年ほどは橋梁の補修工事も多くなり、また、酪農家から「バンカーサイロを作りたい」などの相談を受け対応することもあります。昨今の情勢から解体工事に関する資格も取得、家屋の解体にも多く携わっています。令和2年ごろからは、公営住宅や一人暮らしのお年寄りの家の屋根の雪下ろしも受注するようになりました。
 現在社員は、役員を除き季節雇用も含めて5名。人手は全く足りていないといいます。それでも業務をこなせているのは、常務取締役の長谷川 克弘さんを含め熟練の従業員ばかりだから。5人で10人分くらいの仕事をこなしているのではないかと言います。もう少し人手が増えれば、複数の現場を同時にこなせるものをと思うことも少なくありません。「以前に比べると機械化などから、仕事はずいぶんと楽になっているはずだけど、敬遠されやすい業界ではありますね。若い人が、自分の体を使ってお金を稼ぎ出すということが少なくなってきたかもしれません」。

何もわからないまま業界へ

 長谷川常務は中頓別町に生まれ、ご両親は酪農家でした。子どもの頃から家の仕事を手伝っていましたが、当時は体調が悪かろうが何だろうが牛の世話を1日も休むわけにはいきません。酪農以外の仕事をしようと思い、先代社長にアルバイトをさせてほしいと相談したところ、旭川の専門学校への入学を勧められました。卒業後、いざ実務に入ると、学校で習ったことは基本中の基本に過ぎず、自分で考えてアレンジや応用を加えることが大切だということを思い知らされます。
 そして右も左もわからないまま、冬には道外の工事を担当することもありました。そのときに、北海道の人はとても重宝されたといいます。「雪が降り始める前に仕事を済ませなければ」と自然の脅威がある環境で、期間内に仕事を終わらせることを身につけていたからです。「行った先の人たちの人柄もよかったから、今まで続けてこられたのかもしれません」と懐かしそうに話します。
 現在、長谷川常務は町議会議員も務め、車移動が必要な人のために自家用車で送迎をする「なかとんべつライドシェア」のドライバーでもあります。さらにスキー指導員として町内外の子どもたちにスキーを教え、登山や釣りなど趣味も豊富。「町民」という立場も加えれば、さまざまな立場や視点で、中頓別町のことや行政について考えています。

完成をイメージし、着々と造り上げる

 「私たちのような、どっぷりはまった人は、この仕事は飽きることがないんですよ」と長谷川常務は言います。「フルオーダーを造っているわけです。ものづくりと言いますか、いろいろいろなものを正しい位置に配置することで大きなものがきれいに出来上がる。毎日毎日作業が進み、景色が変わっていくのもこの仕事の魅力ですね」。
 ときに地権者が絡むような現場では、ある程度の交渉や調整が必要ですが、町の仕事であれば、今まで培った信用で安心して任せてもらえています。「信用をつくるまでには長い時間がかかるけれど、失うのは一瞬。常にそれを忘れず、現場職員全員が営業マンだと思って、信用を保つ心配りを大切にしながら仕事に取り組んでいます」。
 道路やライフラインを新しく造る時代は、とうに終わりました。今度は、それらの修繕や改修、また老朽化したものを取り替えるなどの作業が中心となっていきます。そうした要請にすぐに応えられるよう備えています。

機械化が進んでも、人にしかできない仕事が

 「オールマイティーに、なんでも嫌がらずにやってくれる人に来てもらいたい。ものづくりに対して喜びをもって仕事をしてくれる人ならなお嬉しいです。」と長谷川常務。「教えたいことはたくさんあり、ここさえ押さえておけば絶対大丈夫という点もいくつかあります。昔は見て覚えろとか言いましたが、今はそう悠長なことも言っていられません」。 
 また、「私自身は、現場に出ているときには何のストレスもない。でも8時間の現場仕事を終えて事務所に帰り、書類の山を見るとうんざりしますね」と長谷川常務。とくに公共工事は、最終的には十数冊にもなるファイルをまとめて提出しなければなりません。写真を整理したり、仕様書と照らし合わせたり、一般事務とは少し違うのでわかっている人しかできない。そうした仕事を、「年齢的に現場を退いたような人でも、わかった人がサポートしてくれたらどんなに助かるか」と長谷川常務は切実に話します。
 さらには、「かつては、重いものを運んだりするわけではないけれど、現場をきれいに掃除したり整理整頓してくれている、『おばちゃん』がいたものです」。そういう人が細かなことに気を利かせて先回りをして整えてくれるおかげで、作業がスムーズに進んでいたのだと話します。「機械化が進んでも、人がしなくてはならない仕事、人でなくてはできない仕事は必ずあります」。


普段何気なく見ている道路や橋が、こうした「人間」の壮大な製作物。
正田建設株式会社は、これからもそういったフルオーダーを造り守り続けます。