東宗谷農業協同組合 中頓別支所長 佐藤 文一さん

町の基幹産業「酪農」を
時代に即してつなぎ支える

酪農なしでは語れない中頓別

 酪農業は中頓別町の基幹産業のひとつ。人口1700人弱の町に、牛は約3000頭います。東宗谷農業協同組合中頓別支所では、農家がよりよい営農ができるよう、各種支援や指導する役割を担っています。中頓別町農協として72年間、町の大切な産業を守り育ててきました。2000年に浜頓別町農協と猿払村農協が合併してできた東宗谷農業協同組合(JAひがし宗谷)と、2021年3月に合併し、中頓別支所として新たなスタートを切ったばかりです。
 中頓別町ではかつて、ジャガイモなどの畑作を行っていた時代もありましたが、たびたび冷害に遭うなど気候や土壌が合わなくなってしまいました。そのため1970年頃から酪農業への転換が進み、現在は酪農家、肉牛生産農家のみとなりました。酪農は中頓別の気候にも合い、また年中収入を見込めます。
 山に囲まれた中頓別町では、牧場の面積はそう多くとれません。昭和40年代には、酪農家が200戸ほどありましたが、高齢化や後継者不足などで廃業していきました。そうした土地を残った酪農家が買うことで少しずつ規模を拡大。2021年現在、1戸当たりの飼育頭数は平均で約100頭、大規模なところでは法人で約300頭、個人で約200頭です。近隣地域の浜頓別町や猿払村に比べれば、飼育頭数や牧草地の規模は小さくなりますが、現在32戸が生乳を生産しています。「中頓別の主産業だから、酪農家をこれ以上減らしてはいけない」と佐藤支所長は力を込めます。

道外からの新規就農や研修希望も

 中頓別町では新規就農を積極的に支援していて、条件に応じて助成や補助金、固定資産税の減免、貸付なども手厚く行っています。2021年までに道外から4戸の新規就農があり、放牧などそれぞれの理想とする酪農を実現しています。
 放牧は牛の健康維持やストレス軽減という利点はありますが、夏期と冬期で食べる餌の種類や餌の量が変わり、乳量に波があったり風味が変わったりする場合もあります。一方、牛舎につながれたまま飼育する場合は、飼育頭数が多くなっても管理がしやすく、乳量や乳質も一定になりやすいという利点がありますが、牛の健康管理により留意する必要があります。酪農家それぞれの状況や理想に合わせた酪農を行っています。
 新規就農する以外にも、法人や個人で従業員を募集していることも多くあります。畑作と違って1年中仕事があるため、年間雇用が基本です。従業員を経て後を継いでいる例もあります。

ヘルパー利用で「休める」「つなげる」仕事へ

 酪農というのは、生き物相手のため休みがありません。給餌も搾乳も、1日たりとも休むわけにはいかず、家族旅行なんて考えられませんでした。それは酪農家の子どもが後を継がない大きな理由のひとつでしたが、今それは過去の姿となってきています。酪農家が休みたいとき、体調不良や冠婚葬祭などのときに、代わって牛の世話をしてくれる「酪農ヘルパー」の制度があります。
 酪農ヘルパーは、「中頓別町酪農ヘルパー利用組合」が人材を確保し、加入している酪農家からの要請に応じて人材を派遣します。現在、中頓別町の酪農家全てが加入しています。ヘルパーは未経験でもきちんと研修を受けてから酪農ヘルパーとして派遣され、さらに派遣先で実務を経験することができます。中頓別町の酪農家は、家族経営の小規模なところが多く、全工程を自分たちで行っているところがほとんどのため、酪農の仕事の全容をつかむには適しています。また複数の酪農家のもとで働けるため、それぞれ違った方法を幅広く学ぶことができます。宿泊研修施設に滞在したりファームステイしたりしながらの体験研修も用意しているので、全くの未経験から酪農家を目指したいという人、酪農がどのようなものかまずは経験してみたい人には最適な入り口となっています。

変わりゆく酪農に寄り添って

 牛は分娩しないと搾乳できませんが、子牛から母牛になるまで育成するのはかなり手間がかかります。そのため、中頓別町では子牛を預託する「乳用牛の哺育育成センター」を2023年度開設予定です。そのほか、牛の給食センターとも言える「TMRセンター」を設けています。酪農家は餌作りや育成を外部に預託することで、搾乳可能な母牛に集中できるのです。「何から何まで自分でやっていたらもちません」と佐藤支所長。
 人手不足もあり、労働力を分散するためにも、分業化、機械化、自動化、ICT化と、今後も酪農業は変わっていくでしょう。ただ、「全部を法人化、機械化して数人のスタッフで何百頭もの牛が飼えるようになっても、町の人口は減り、すたれてしまう。やはり個々の農家がちゃんとやっていけるように、情報を提供し人を育てていかないといけない。コストもかかるけれど、その分収益を上げ魅力のある職種にするお手伝いをしたい」と佐藤支所長。

 中頓別町のおいしい牛乳の生産がこれからも続き、町が活力を持って継続していくためには、就農者と農協職員、どちらの力も欠かせません。