中頓別・浜頓別町森林組合 代表理事組合長 只野 國男さん

100年先の森をつくり地球を守る
持続可能な山林と持続可能な人材を

森林を維持管理するのが仕事

 森林組合はどういったところなのか、皆さんはご存じですか?日本の国土はおよそ7割が森林で、さらにその森林は、国有林、都道府県有林、市町村有林、私有林に分類できます。私有林は森林全体の7割に相当しますので、日本の国土の約5割弱が私有林となる計算です。森林組合というのは、森林所有者が組合員となって組織している協同組合で、市町村有林や私有林の管理をしています。北海道には77あり、1968年に組織された中頓別・浜頓別町森林組合は北海道内でも古株。中頓別と浜頓別の組合が合併して今に至っています。
 宗谷管内は開拓当初から林業が盛んな地域です。それぞれの市町村にいくつもの製材所があり、最盛期では40社ほどが営業していましたが、安価な輸入材等の流通や様々な外的要因により国産木材が販売不振となったため、今では数社ほどになってしまいました。しかし現在、木が持つあたたかさや環境問題への意識向上から木材の利用が見直されています。公共の建物にも木材が積極的に利用され、人々にぬくもりを与えています。木と触れ合い、木に学び、木と生きる「木育」の取り組みや、木質バイオマスを導入する動きも活発化してきました。

果てしない年月がかかる森づくり

 森林組合が携わっている「森づくり」には非常に長い年月が必要です。太く大きな木を育てようと思えば長い年月がかかります。一方で、年を取った木は二酸化炭素の吸収量が少なくなるため、計画的に「切る・植える」のサイクルを作ることが重要である、と教えてくださったのは、中頓別・浜頓別森林組合の組合長を務める只野國男さんです。
 只野組合長は以前は酪農業を営んでいました。そのころ、近くの大きな山林所有者が、ある事情により山林を売却し、造材事業者が森の木を全て切ったことがあったそうですが、結果として近くの小川が干上がってしまい、魚もいなくなってしまったそうです。慌てて木を植えたところで、立派な成木になるのは何十年も先のこと、後先考えずに無茶苦茶に切ってしまうと大変なことになる。「森の果たす役割は大きいのだと実感した出来事だった」と当時を振り返り、「中頓別町の川はとても綺麗、川が綺麗なのは豊かな森、豊かな山のお陰だ」と話します。
 木を「木材」として使用するために、以前は太く大きな木に育ててから伐採し製材していましたが、近年は植樹から代採までのサイクルが早まってきており、現在需要が多いのは、直径30cm前後、樹齢でいうと50~60年くらいの木材だそうです。一定の長さや太さなどの規格をクリアすれば集成して加工することができ、製材技術の進歩でより強度が要求される大きな建築物の骨組みにも使用可能となりました。
 植樹から代採までのサイクルが早まったとはいえ、それでも50年。現在伐期を迎えるトドマツやカラマツは、戦後から高度経済成長期にかけて先人たちが植樹してくれた木々です。「先代が作ってくれた木を有効に使うため、切った木は大切に使い、後世に伝えていかないとならない」と只野組合長は言います。

健全な森が健全な産業を支える

 森林組合の仕事は、森をつくることと管理すること。植えっぱなしでは木は育ちません。日光が当たるよう、苗木の周囲を覆った雑草や雑木を除去する「下刈り」という作業は、植林から5~10年程度必要です。間違って苗木を切ってしまわないよう気を遣うため、非常に手間がかかります。他にも、木が鹿の被害を受けないような対策や、殺鼠剤を上空からヘリで散布する作業も行っています。
 下刈りなどの手入れがされず、木々が密集してしまっている森では、林床(木の根元)に光が届きません。光合成を行うバクテリアが繁殖し落ち葉などを分解して腐葉士をつくっていきますが、光が届かないとそれもできなくなり、やがて草や笹も生えなくなってしまいます。土の中では木々の根が密集して絡まり合う。そうした山は、大雨などで山の表層ごと崩れてしまいやすい。全国には後継者がいないことによって管理されずに荒れていく山が多いのだそうです。
 一方、健全な森に雨が降れば、肥沃な栄養分が川に流れ込み、やがては海まで運ばれます。そしてそれは昆布や魚介類にも大きな恩恵をもたらします。森づくりはただ木材を得るためだけのものではありません。「山から川や海へ栄養が流れ生命が生まれている。ものごとの営みの根源が山にあるといっても過言ではない」と話す只野組合長。森林組合が担う役割の意義は大きいと言えます。
 また、森林があることで二酸化炭素の吸収をしてくれますが、森林の木々の大量伐採を行えばCO2の吸収量が少なくなり、温暖化が進行してしまいます。様々な産業や自然環境も森や山の豊かさに守られている―その森を守る“担い手”が少なくなるのは、地球にとっても地域の産業にとっても、たいへん大きな問題なのです。

次の時代の環境を託して

 森林組合での実際の業務内容は、素材生産と造林に大別されます。素材生産班は伐期の木を切って搬出し、販売します。木を切った後は造林班が笹や草を刈り地ごしらえをして植林します。育つ過程で下刈りや間伐も行わなければなりませんし、鹿やネズミの被害の対策も必要です。
山での仕事は体力的にハードなものも多いのですが、近年は傾斜地でも作業が可能な機械を導入しており、今後は更に機械での作業が主流となっていきます。男性の職場と思われがちですが、中頓別・浜頓別森林組合の現場には女性職員もおり、ますます女性の活躍が求められています。
また、現場の機械オペレーターや造林作業以外にも、組合事務所での各種事務作業などもあり、業務は様々です。求人に応募した場合、その方の希望職種を聞き、適性を考えて配属することになります。現場での業務は経験者が望ましいとはいえ、未経験者の方も林野庁による「緑の雇用」事業という支援制度を通じ、研修や資格取得をサポートして人材を育成していきます。
 「林業には非常に重要な役割がありますが、世間的には深く知られていないのが実情です。あるとき高校生に「第一次産業といえば」という問いをした際に、「林業」という答えがなかなか出てこなかった現状があります。次の時代を担う子供たちには特に「林業」について知ってもらいたい。未来に自然を残していけるように、それには森林組合としても非常に責任は大きい。そこに生きがいを感じて働いてくれたら」と只野組合長は話します。現場から、あるいは現場のサポートをすることで、未来への貢献をしたいと思える人が森林組合の望む人材です。
 更に、中頓別・浜頓別森林組合では、2020年に開校した北海道立北の森づくり専門学院からのインターンシップ受け入れを行っており、今後も続けていく予定です。森をつくる手を休めないのと同様、人材育成の手も休めません。

 “先人が植えた木を利用し、自分が植えた木の成長を見守り、次世代へバトンを渡す”―森林組合は過去・現在・未来をつなぐ仕事に日々携わっています。