
養護老人ホーム長寿園 社会福祉法人南宗谷福祉会 長寿園施設長 伊藤 和卓さん
高齢化社会を、温かく力強く支える
福祉事業を一手に担う
社会福祉法人南宗谷福祉会は1974年創立。翌年には養護老人ホームを、翌々年には特別養護老人ホームを開設しました。どちらも「長寿園」と名付けられました。今でこそ各町村に老人ホームはありますが、当時は宗谷管内にあった3つのうちのひとつ。町内唯一の老人福祉施設として、半世紀近くも地域の福祉を担っています。
「長寿園」は病院の隣にある、町民にはおなじみの施設です。ある程度自立した生活を送ることができる人が入所する養護老人ホームと、常時介護を必要とし自宅で介護を受けることが困難な人のための特別養護老人ホームを、それぞれ55人の定員で運営し多くの方に利用いただいています。
そのほか、一時的に入所できる短期入所生活介護事業所や、介護が必要な方それぞれの身体の状況や家族の希望に応じて選択できる通所のデイサービスや訪問介護サービス事業も行っています。まさに、中頓別町における高齢者福祉の要として機能しています。
「社会保障が大きく見直され、老人ホームの性質も大きく変わりました。昔のようなマイナスイメージではなく、一人暮らしになって少し生活に不安や不自由を感じるようになったら、施設のほうに行って生活しようかと考える人も多くなってきました。住民サービスの一環として、中頓別町にとってなくてはならない事業になっています」と、施設長の伊藤 和卓さんはこの仕事の意義を話します。

人手不足解消と次世代の育成
町の福祉の頼れる担い手であり、高齢化が進む現在とりわけ重要な施設やサービスばかりですが、人手は慢性的に不足しています。さまざまな職種がありますが、特に看護師、介護員、生活相談員など、資格を持つ人を確保するのは、都会ですら難しくなっている昨今、非常に厳しいものがあるのが現状です。さらに調理員なども常に不足状態で、ホームページでも募集をかけています。
中学生の職場体験学習や、隣町にある浜頓別高校の生徒によるボランティアやインターンシップ、夏休みや冬休み時のアルバイトなども積極的に受け入れ、浜頓別高校まで送迎を出すこともしています。こうした取り組みは、施設にとっては人手不足解消となり、生徒たちにとっては貴重な社会体験となっています。「最近は核家族でおじいちゃんおばあちゃんと一緒に住むことも少なくなりましたからね。老人ホームも、頭で考えるのと、実際に関わってみるのとでは全然違うのではないでしょうか」と伊藤施設長は言います。ボランティアやインターンシップ、アルバイトに来た生徒の中から、当施設で働きながら専門資格などを取得して正職員になった人も少しずつ増えてきており、担い手の育成にもつながっているなど、数々の効果を生んでいます。

それぞれの事情に合った働き方やサポートで
介護職の勤務時間は早番・普通番・遅番・夜勤などのフルタイムが通常ですが、7年ほど前から短時間勤務のパート雇用を始めました。特に子育て中の主婦など、働く意欲のある方の中には、ご家庭の事情により勤務できる時間や日数などの条件が様々である場合があります。正職員・フルタイムでの勤務・採用にこだわって人手が不足するよりも、その人の希望する条件に配慮できるよう業務の組み換えを行いながら、さらにお互いに歩み寄れる仕組みになることを目指しています。
令和2年度からはこの取り組みで得た経験などを活かし、「介護アシスタント」によるサポート活動の受け入れを始めました。この活動は、定年などで現役を退いたものの、心身ともに健康でまだまだ地域に貢献したい思いを持つ方を中心に行われています。それぞれの生活において負担にならない時間などに、福祉の経験がなくても従事できる掃除や洗濯、車いすの点検など軽作業を「介護アシスタント」として担っていただいております。
現役を退いた方が一人でポツンと自宅に閉じこもってしまうと、そこから心身の衰えが始まってしまいます。介護アシスタントの取り組みは、高齢者の社会貢献や自信につながりますし、健康寿命の延伸も期待できるシステムと言えるのではないでしょうか。

安心して年をとることができる町へ
「優しい眼差しで 気配り忘れず 温かな想いを そっと心に届けよう(優気想心)」これが長寿園の行動理念です。「一方的に技術を提供し介護をするのではなく、ご利用者が何を望んで何に悩んでいるのかを常に考えるような方に来ていただきたい」と伊藤施設長。まずは働きたい、役に立ちたいという気持ちが大切。そんな気持ちがあれば、資格がなくても、南宗谷福祉会では資格取得の支援を積極的に行います。
職場は和気あいあいと仲良く、人間関係も良好。介護の業界は離職率が高いことが知られていますが、ここではかなり低く、長く働いている人が多いというのがその証拠です。町外から来る人には借り上げ社宅や公営住宅をあっせんします。
長寿園のことは知っていても、中に入ったことがあるという人は、家族などが入所している人以外は少ないのではないでしょうか。「もっと、地元の人に対して、ここがどのような施設かを知ってもらいたい」と今後の課題を話す伊藤施設長。養護老人ホームや特別養護老人ホームがどんなところであるのか、利用者がどのような毎日を送っているのかをもっとアピールし、年に何回かは町民に開放して見てもらいたい。そしてもしも生活に不自由や不安がでてきたときに、難しく考えることなく人の手を借りるという選択をしてもらえるような施設になればと伊藤施設長は考えます。誰しもが迎える「老い」ですが、中頓別には長寿園があるから安心、そういう存在であり続けるために、愛情をもって働いてくれる人材を求めています。